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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)9550号 判決

主文

被告らは原告岡田輝彦に対し、同原告が昭和三五年四月二三日、原告東京小型自動車部品株式会社に対してなした、東京都千代田区神田紺屋町四番地宅地一〇六坪五合一勺の内南側五八坪七合六勺(別紙図面中実線で囲まれたAの部分)についての賃料一ケ月八、八一〇円、毎月末日払、期間昭和三四年一月一日以降昭和六三年一二月末日まで、非堅固建物所有のための賃借権の譲渡を承諾せよ。

原告東京小型自動車部品株式会社の請求を棄却する。

訴訟費用中原告岡田輝彦と被告らの間に生じたものは被告らの負担とし、原告東京小型自動車部品株式会社と被告らの間に生じたものは同原告の負担とする。

事実

第一、原告岡田輝彦の申立と主張

(請求の趣旨)

主文第一項同旨の判決を求める。

(請求の原因)

一、原告岡田輝彦は昭和二二年五月一日以来被告らから、その所有にかかる主文掲記の宅地一〇六坪五合一勺を賃借していたが、昭和三三年一二月一六日、右当事者間の東京高等裁判所昭和三三年(ユ)第三九号建物収去土地明渡調停事件につき、次のような調停が成立した。

(1) 原告岡田と被告らとの右土地賃貸借を同日合意解除し右土地の北側四七坪七合五勺を昭和三四年八月末日限り原告岡田から被告らに返地すること。

(2) 被告らは右土地の南側五八坪七合六勺(別紙図面中実線で囲まれたAの部分)を昭和三四年一月一日以降昭和六三年一二月末日まで賃料一ケ月八、八一〇円、毎月末日払、非堅固建物所有のため原告岡田に賃貸すること。

(3) 原告岡田が右賃借権を第三者に譲渡する場合は予め被告らの承諾を求めることとし、被告らは賃借権譲受人が第三国人又は社会的若くは信用上賃借人として不適格者に非ざる限り無償にて右譲渡を認むべきこと、(その他省略)

二、原告岡田は昭和三五年四月二三日、右借地上の同原告所有建物と右賃借権とを原告東京小型自動車部品株式会社に譲渡したが、これに先だち同年一月より同年三月三〇日にかけ、被告らに右賃借権譲渡につき承諾を求めた。右原告会社は小型自動車部品の販売を目的とする会社で、富士重工業株式会社山口自動車工場の東日本総代理店、プリンス自動車販売株式会社、東京トヨペツト株式会社の各自動車部品の東京地区代理店となつており、第三国人でないことは勿論、社会的経済的信用も極めて大であるから、被告らは前記調停条項により右賃借権譲渡を承諾すべきものであるのにその承諾をしないから、本訴によつてその承諾を求める。

第二、原告東京小型自動車部品株式会社の申立と主張

(請求の趣旨)

原告会社が主文掲記の土地五八坪七合六勺につき、同掲記の使用目的、存続期間、賃料額及び支払方法による賃借権を有することを確認するとの判決を求める。

(請求の原因)

一、原告岡田輝彦は前記第一の一の経緯により請求の趣旨記載の土地に賃借権を有していた。

二、原告岡田は昭和三五年四月二三日右借地上の同原告所有建物と右借地権とを原告会社に譲渡したが、これよりさき同年三月三〇日被告らは原告岡田及び原告会社代表者前川恒吉に対し右賃借権譲渡を承諾した。しかるに被告らは現在原告会社の賃借権を否認するのでその確認を求める。

第三、被告らの答弁

請求棄却の判決を求める。

(原告岡田に対する事実上の答弁等)

一、原告岡田の主張事実中一の事実、二の事実中原告主張の日はその主張の建物及び賃借権譲渡のあつたことは認めるが、その余の事実は争う。

二、原告岡田は調停条項により賃借権譲渡前予めその承諾を求むべきであつたのにこれをしなかつたので昭和三五年九月一〇日原告岡田に対し、賃借権の無断譲渡を理由に賃貸借契約解除の意思表示をした。その結果賃借権はもはや存在せず、譲渡承諾の余地はない。

(原告会社に対する事実上の答弁等)

一、原告会社主張事実中一の事実、二の事実中その主張の日にその主張の建物及び賃借権譲渡のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

前記二、の理由でもはや原告主張の賃借権は存在しない。

第四、原告らの答弁

(原告岡田の答弁)

被告の主張する契約解除の意思表示のあつたことは認めるが前記の如く予め承諾を求め、しかもこれを承諾すべき場合に、無断譲渡を理由として契約を解除しても無効である。

(原告会社の答弁)

被告主張の契約解除の意思表示のあつたことは認めるが無断譲渡の事実はないから無効である。

第五、証拠関係(省略)

理由

一、賃借権譲渡承諾の有無

原告ら主張一の事実と賃借権譲渡の事実は争いがない。

しかしながら、原告会社主張の譲渡承諾の事実は全立証によつてもこれを肯認できないから、譲渡承諾の存在を前提とする原告会社の請求は失当として排斥を免れない。

二、譲渡承諾義務の有無

証人早重忠成、臼井秀男、西沢清十郎の証言、原告岡田輝彦、原告会社代表者前川恒吉の本人尋問の結果を綜合すれば、原告岡田輝彦、原告会社代表者前川恒吉、及び同人らの使者として右早重、臼井、西沢らは、右賃借権譲渡前の昭和三五年一月から三月三〇日頃までの間、交々被告直、もしくは正、もしくは同人らの父芳之助に面接し右賃借権譲渡につき予め承諾を求めその間、原告会社が小型自動車部品業界における信用ある会社であることを明らかにしたに拘らず、被告らは諾否の態度を明確にしなかつたことが認められる(右認定に反する証拠は採用しない)。しかしながら原告会社はいわゆる第三国人にあたらないことは成立に争いのない甲第四号証により明白であり、かつ「社会的若くは信用上賃借人として不適格者」でないことも右西沢清十郎、原告会社代表者前川恒吉の供述により明らかであるから、被告らは、調停条項によつて約するところにより原告岡田輝彦に対し右譲渡を承諾すべき義務を免れない。被告らがその主張のような契約解除の意思表示をしたことは争いがないが、右のように予め賃借権譲渡の承諾を求め、しかもそれを承諾すべき義務あるに拘らず、承諾の態度を明らかにしなかつた場合に、その承諾を待たずに賃借権譲渡をしても、無断譲渡を理由として賃貸借契約を解除できないことは右調停条項の趣旨上当然の事理であつて、右解除の意思表示は無効というの外なく、これによつて右承諾義務を免脱することはできない。よつて被告らに対しその承諾を求める原告岡田の請求は正当として認容すべきものである。

三、よつて民訴九五条、八五条を適用し主文のとおり判決する。

(別紙)

〈省略〉

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